2026.05.21
ドラッグストアの土地活用とは?事務所跡地を“建て貸し”で活かした成約事例【明石・キリン堂朝霧店】

その土地活用、「向かいのお店から声がかかった」——受け身からでも始まります
「事業をたたんだ事務所の跡地が遊んでいる」「ロードサイドに土地はあるが、何に使えばいいか分からない」——そんなお悩みをお持ちの地主様にとって、ドラッグストアの土地活用は有力な選択肢のひとつです。
そして実際の現場では、地主様が自ら活用先を探すよりも、近隣の事業者やドラッグストアの出店担当から「ここを貸してほしい」と声がかかるかたちで話が動き出すことが少なくありません。今回ご紹介するのも、まさにそのパターンです。
ただし注意したいのは、持ち込まれるスキームは、まず提案する側の都合で組まれているという点です。だからこそ、複数の当事者(事業者・テナント・施工)を一つにまとめ、地主の手取りまで見据えて条件を整理する“取りまとめ役”がいるかどうかで、最終的な収支は大きく変わります。この記事では、兵庫県明石市の事務所跡地がドラッグストア「キリン堂朝霧店」(2026年1月開業)に生まれ変わった成約事例をもとに、ドラッグストアの土地活用の方法・地主のメリット・進め方・注意点を、わかりやすく解説します。
【事例】明石市の事務所跡地が「キリン堂朝霧店」になるまで
舞台は、JR朝霧駅から徒歩圏内、約500坪の土地です。もともとは事務所と駐車場として使われていた跡地で、小学校・保育園・郵便局やスーパーが集まる生活商圏に位置していました。地主は、この土地を所有する明石市内のA様(仮名)です。
きっかけは、A様の働きかけではありませんでした。道路を挟んだ向かいで営業するスーパー「ヤマダストアー」が、自店との相乗効果と従業員駐車場の確保を見込んで進める、A様の土地にドラッグストアを誘致する「マスターリース(一括借り上げ)方式」が、ヤマダストアー主導の企画として持ち込まれたことから動き出しました。つまりA様は、事業者主導で持ち込まれたスキームを評価する側でした。
私たちは、このヤマダストアー(マスターリース事業者)から委託を受けて取りまとめの実務を担い、A様・ヤマダストアー・テナントのキリン堂、そして建設会社の間に入って、企画から契約までの全体を調整しました。(当社の立場について正直にお伝えします。 当社は、マスターリース事業者、施工を担当する建設会社からの紹介・コーディネートなど、全体をまとめる立場です。こうした立場では、つくり手側の都合に寄りすぎていないかを地主ご自身が見極めることが大切です。本件で当社は、特定の一者に偏らず、A様の手取りとリスクを判断の基準に置いて条件を整理することを心がけました。)
最初の面談でA様から示されたのは、「敷金・建設協力金の範囲で造成以外の費用を賄えるなら前向きに考える。それを超えるなら借地への切替も視野に入れる」という慎重な前提条件でした。この前提を起点に、持ち込まれたマスターリース(建て貸し)案と競合の借地提案とを並べて比較したところ、伝え聞いた限りでは建て貸しのほうが利回りがよく、競合の借地提案は地主の持ち出しが大きかったため、建て貸し方式(A様自身が建物を建てて長期で貸す方式)で進めることになりました。店舗の運営は、大手ドラッグストアチェーンのキリン堂が担います。
案件化からおよそ1年7か月後の2026年1月22日、キリン堂朝霧店は無事に開業。オープン初日は駐車場が満車になり、警備員3名体制で臨む盛況なスタートとなりました。
ドラッグストアの土地活用、主な3つの方式
ドラッグストアに土地を活かす方法は、大きく次の3つに分けられます。それぞれ、地主の初期負担・収益性・土地や建物の所有関係が異なります。
| 方式 | 地主の初期負担 | 収益イメージ | 建物の所有 | 向いている土地 |
|---|---|---|---|---|
| 借地(事業用定期借地) | 小さい(造成程度) | 地代収入(安定・控えめ) | テナント側が建てる | 整形地・更地・農地転用地 |
| 建て貸し(リースバック型) | 中程度(建築費が必要だが工夫で圧縮可) | 賃料収入(地代より高め) | 地主が保有 | 事務所跡地・駐車場・遊休地 |
| 売却 | なし | 一時金のみ(継続収入なし) | 手放す | 活用予定のない土地 |
「とにかく手間と負担をかけたくない」なら借地、「土地は手放したくないが活用したい」なら建て貸し、というのが大まかな目安です。今回の事例で選ばれたのは、真ん中の建て貸し方式でした。
なぜ「建て貸し方式」に落ち着いたのか
建て貸しで進めることになった理由は、伝え聞いた限りでは「そのほうが利回りがよく、A様の手元に残る収益が大きかった」からです。
土地をそのまま貸す借地方式の提案も複数ありましたが、各社の提案を建て貸しと並べて比較した結果、建て貸し方式のほうが利回り・手取りの面で有利でした。自ら建物を建てて貸す建て貸し方式は、建築という初期投資が必要になる代わりに、借地よりも高い賃料収入が期待でき、建物という資産も自分の手元に残る点が決め手になりました。
持ち込まれた話ほど、「全体を束ねる取りまとめ役」が要る
今回いちばんお伝えしたいのは、ここです。事業者から持ち込まれるスキームは、その事業者にとって都合よく設計されているのが普通です。マスターリース事業者には、自店との相乗効果や駐車場の確保(案件によっては転貸の差益)といった狙いがあり、放っておくと工事費・工事区分・地盤や行政対応の追加負担が、地主側に寄ってきがちです。
本事例でも、A様の負担が膨らまないよう、次のような調整を行いました。
- ・過大な工事費が地主に偏らないための調整:当初の工事見積が想定より高かったため、原価に基づく見積精査と指値交渉、および設計の見直し(FL〔地盤高さ〕設定の調整による残土・造成の最適化)を重ね、工事費が膨らんでA様の負担に偏らないよう調整しました。
- ・工事区分の適正配分:建物本体・外構・看板・内装などの費用を、地主/マスターリース事業者/テナントへ適切に振り分け、地主負担を最小化しました。
- ・地盤コストの抑制:地盤改良費が膨らまないよう、地盤調査を段階的に実施する進め方を採用しました。
- ・行政協議のサポート(開発許可は追加費用なしで取得):開発許可(29条)の協議が一時停滞した際は、地主と建設会社が明石市との協議に臨み、当初計画どおりの許可を、許可そのものについては追加費用を生じさせずに取得しました。当社は、その間の工程調整や関係者間の連絡(地主の協議同席手配を含む)をサポートする立場で関わりました。
- ・行政指導・地中障害による追加負担は区分して精算:上記の許可取得とは別に、行政指導による擁壁・基礎工法の変更や、掘削で出た地中障害への対応では、地主側に追加工事の負担が実際に発生しました。これらは負担区分を整理し、A様にご説明のうえ精算しています。
この結果、追加で生じた負担は負担区分を明確にして精算し、計画全体は当初の枠組みを保って着地しました。持ち込まれた話を、条件と工事区分まで踏み込んで整理・調整することが、地主にとっての最大の保険になります。
建て貸しで土地活用する「地主3つのメリット」
1. 自己資金を抑えて建てられる
建て貸しでは、テナントから預かる敷金や、出店企業が建築費の一部を負担する建設協力金を、建物の建築費に充当できます。今回の事例でも、建築費の相応の部分をこれらで充当でき、自己資金の負担を圧縮できました。ただし、これらで賄いきれない建築費や、造成・追加工事の分は、地主の自己資金で対応する必要があり、本事例でも相応の自己資金の持ち出しが生じました。(建設協力金は、将来の賃料と相殺するかたちで返していく性格のお金です。)「建物を建てる=多額の自己資金が必要」とは限りませんが、ゼロで建てられるわけではない点は、設計とあわせて押さえておきましょう。
2. 長期で安定した賃料収入が得られる
ドラッグストアの建て貸しは、一般に10〜25年程度の長期契約が基本です。今回のキリン堂朝霧店も長期の定期建物賃貸借契約で、契約期間にわたって毎月安定した賃料が見込めます。景気や入居者探しに一喜一憂せず、長く収益を計画できるのは大きな安心材料です。
3. 建物が資産として残り、節税につながる場合がある
売却と違い、建て貸しでは建物が地主の資産として残ります。そして一般論として、建物は減価償却の対象となり、減価償却を通じて所得税を平準化できる場合があります。(これは本事例の効果を示すものではなく、一般的な仕組みの説明です。税務上の取り扱いは個別の状況により異なるため、税理士等への確認が前提です。)
企画から開店までの流れ
ドラッグストアの土地活用は、思い立ってすぐ開店できるものではありません。今回の事例も、案件化から開業まで約1年7か月かかりました。大まかな流れは次のとおりです。
- 市場性の確認・スキーム精査:立地・商圏と、持ち込まれた(または検討する)活用方式の妥当性を見極める
- 条件交渉・取りまとめ:出店企業・マスターリース事業者と、関係者の条件が成立するよう調整(地主の収支成立も重視)
- 建築計画・コスト調整:施工を担当する建設会社と配置図・見積を詰め、工事区分を整理
- 契約締結:地主・マスターリース事業者・テナント間の賃貸借契約、工事請負契約を組成
- 開発許可・着工:開発許可(都市計画法29条など)の取得、解体・造成・建築工事
- 竣工・引渡し・開店:検査を経て引渡し、テナントによる内装・開店準備
特に条件交渉・建築コストの調整・契約の組み立ては、地主お一人で進めるのが難しい部分です。
つまずきやすいポイントと、その乗り越え方
土地活用は、計画どおりに一直線で進むとは限りません。今回の事例でも、いくつかの壁がありました。
- 軟弱地盤・地盤改良:調査の結果、地盤対策(柱状改良など)が必要に。段階的な調査と設計の工夫でコストを抑えました。
- 開発許可の行政協議:行政との協議が一時的に停滞しましたが、地主・建設会社が同席して協議を重ね、最終的に当初計画どおりの許可を取得しました。
- 想定外の追加工事:掘削の過程で出た土や地中の障害物への対応が発生。処分方法や工法を工夫しつつ、地主側にも追加負担が生じたため、負担区分を整理して関係者間で精算しました。
こうした不確実性は、ドラッグストアの土地活用に限らず起こり得るものです。早い段階で調査を行い、リスクを見込んだ計画を立てておくこと、そして当事者間に立って全体を調整する専門家がいることで、想定外を乗り越えやすくなります。
まとめ:持ち込まれた土地活用の話を「長期の安定収入」に変える
ドラッグストアの土地活用、とくに建て貸し方式は、
- 自己資金を抑えて建てられる
- 長期で安定した賃料収入が得られる
- 建物が資産として残り、減価償却を活用できる
という、地主にとって魅力的な選択肢です。そして今回ご紹介した明石市の事例が示すのは、話が向こうから持ち込まれたときこそ、複数の当事者を束ね、地主の手取りまで見据えて全体を取りまとめる役の有無で、最終的な収支が変わるということです。
「自分の土地はドラッグストアに向いているのか?」「持ち込まれた話の条件は、自分にとって妥当なのか?」——まずそれを知ることが、最初の一歩です。
事務所跡地・駐車場・ロードサイドの遊休地について、まずはお気軽にご相談ください。

