土地活用の匠

使わなくなった倉庫や工場の跡地を、入札で売却する。法人が遊休不動産を手放すときの、ごく一般的な方法です。ただ、入札物件へのテナント誘致が水面下でどう動いているかを、売る側から見る機会はほとんどありません。



この記事では、大阪府大東市にあった食品メーカーの物流倉庫跡地が、ドラッグストアの敷地に変わるまでを扱います。私たちが立っていたのは売主側ではなく、買い手であるデベロッパー側でした。だからこそ書ける、入札の裏側の話です。



事例の概要


項目内容
所在地大阪府大東市(幹線道路沿い)
従前の用途食品メーカーの物流倉庫(チルドセンター)
敷地面積約827坪
新築建物約300坪の店舗
売却方法入札
契約形態事業用定期借地権(20年を超える長期)
テナントスギドラッグ 大東御領店(2026年6月25日オープン)
当社の立場買い手(デベロッパー)側でのテナント誘致・契約実務


はじめに、当社の立場をはっきりさせておきます。この案件で当社は、土地を手放した食品メーカー側の代理人ではありません。売主側には別の窓口があり、当社は物件を紹介されて、買い手側でテナントを探す役回りでした。以下は「地主の相談に乗った話」ではなく、「入札の反対側から見えた景色」として読んでいただくのが正確です。



入札物件へのテナント誘致とは、何をしているのか


入札物件は、応札者が価格を書いて出します。その価格は、どう決まるのか。


自分で使う会社なら、事業計画から逆算します。しかし、買って貸す前提のデベロッパーは、「いくらの賃料で、どんなテナントが、何年借りてくれるか」が決まらないと、払える金額が決まりません


つまり、入札物件へのテナント誘致とは、応札の前にテナントの感触を集め、価格の根拠をつくる仕事です。応札側にとって「この条件でこのテナントが借りる見込みがある」という感触は、社内で応札価格を説明する材料になり得ます。


この案件でも、当社は複数社に当たり続けました。有力候補だったあるドラッグストアは、申込と面談まで進みましたが、その後の役員会で否決されています。その否決の3週間ほど前には、別のドラッグストアから、地代・敷金の水準とともに「申込書を発行する」との返答を得ていました。さらに複数社から地代水準の感触を回収し、デベロッパーが応札価格を固めた時期にも、複数社の地代目線が卓上にありました。


この入札には15社が応札し、当社と組んだデベロッパーが落札しています。




テナント誘致の実際:20社を超える打診


この案件で当社が打診したテナントは、20社を超えます


ドラッグストア、食品スーパー、ディスカウント、ホームセンター、飲食チェーン、コンビニ、ホテル、冠婚葬祭、リユース、カフェなど業種は多岐にわたります。


そのほとんどが「不可」でした。


断られた理由が重要です。この立地で返ってきた「不可」の最も多い理由は、「近隣に既存店がある」「商圏が重複する」というものでした。競合が、すでに密集していたのです。


食品スーパーもホームセンターもドラッグストアも揃った幹線道路沿いで、「まだ空いている椅子」を持つ企業を探す作業です。1社ずつ当たり、条件を聞き、配置図を用意して、また当たる、それ以外に方法はありません。


理由はそれだけではありません。「導線が逆向きで利用性が完全でない」「向かいの店舗のタバコ免許の関係で出店できない」「フランチャイズの調整が難しい」立地や土地固有の事情による見送りもありました。有力候補の否決理由も、前面道路の交通量と診療圏調査という、こちらではどうにもならないものでした。


それでも打診を止めなかったことで、複数の候補を卓上に残したまま進むことができました。


正確を期すと、成約したドラッグストアは、当社が打診を始めた時点で、すでに独自にこの土地を追いかけていました。当社が母数を積み上げたから決まった、という話ではありません。当社の役割は、その意向をデベロッパー側の検討に接続し、条件を整えて契約の形にしたことです。



なぜ倉庫跡地は「現況有姿・調査なし」で売られるのか


この物件の入札条件には、次のような内容が並んでいました。


  • ・現況有姿での引渡し
  • ・契約不適合責任は免責
  • ・アスベスト・土壌汚染等の調査は実施せずに引渡し
  • ・契約から決済まで一括・短期での取引

倉庫跡地・工場跡地の売却では珍しい条件ではありません。一般論として、調査すれば結果に責任が生じ、対策費用や売却時期の遅れにつながります。「調べずに、現況のまま、責任は負わずに売る」という条件設定には、売主側の合理性があります。


ただし、本件の売主が実際にどう考えてこの条件を設定したのかは、当社にはわかりません。当社は売主側の当事者ではなく、ここで言えるのは提示された条件そのものだけです。


問題は、そのリスクが買い手側にそのまま渡ることです。


この土地の建物には、1970年(昭和45年)付の新築工事図面が残っていました。長く物流施設として使われてきた土地で、地下に何が眠っているかは掘るまでわかりません。買い手にとっては青天井のリスクです。



土壌汚染・地中障害の負担区分は、契約前に決める


青天井のリスクを抱えたままでは、デベロッパーは投資判断ができません。かといって、テナントに「何が出ても全部あなたの負担で」と言えば、逃げられます。


この論点は、テナント側が最初の条件提示で、地表から一定の深さまでは既存杭を撤去してほしいと求めたことが出発点でした。当社はこれを条文案に落とし込み、双方の確認を経て、賃貸借契約を結ぶの段階で、次の内容が合意されました。


何が出たか誰が負担するか
土壌汚染デベロッパー(貸主)
地中障害(埋設物・既存杭など)/地表付近の浅い層までデベロッパー(貸主)
地中障害/そこより深い部分テナント(借主)

なお、深さで線を引いたのは地中障害についてだけです。土壌汚染は、深さにかかわらず貸主負担という整理でした。


契約書では、貸主が賃貸借の始期までに自らの責任と費用負担で既存建物を解体撤去し、借主は更地の状態で土地を借り受ける、と定めています。そのうえで地中埋設物は、浅い範囲を貸主が撤去し、より深い部分で建物の建築に支障があれば借主が撤去する、という線引きです。



この線引きは、どこから来たのか


この深さの基準は、当社やデベロッパーが設計したものではなく、テナント側が最初の条件提示に含めていた基準です。これが契約の文言に入ったことで、貸主は負担する範囲が「地表に近い側まで」と特定され、借主はそれより深い部分の負担を契約の時点で織り込めました。これが、賃貸借条件の合意の前提のひとつになりました。


もしこの取り決めがなければ、「出てから話し合いましょう」のまま契約することになります。何かが出た瞬間に、書いていない以上は一から交渉です。契約の前に線を引いておくかどうかで、後の協議の出発点が変わります。



成約までの流れ


  1. 1.紹介・情報入手(入札案件として持ち込まれる)
  2. 2.テナント誘致(20社超へ打診・面談・条件回収・配置図の作成)
  3. 3.応札・落札(15社の入札を経て、組んだデベロッパーが落札)
  4. 4.条件調整(期間・地代・工事中の賃料・敷金・不解約期間・負担区分
  5. 5.契約書案の作成(事業用借地権設定の合意書ほか)
  6. 6.役所調査・重要事項説明書の作成(埋蔵文化財、開発指導要綱、インフラ、埋設設備の確認)
  7. 7.重要事項説明 → 賃貸借契約 → 売買決済
  8. 8.公正証書の作成(事業用定期借地権は公正証書が必須)
  9. 9.着工 → 2026年6月25日オープン

当社がこの案件で担ったのは 2、4〜6、7のうち賃貸借契約、そして8 です(重要事項説明書の作成は6に含まれます)。応札・落札(3)はデベロッパー自身の判断と行為であり、当社は入札に参加していません。 土地の売買にも当事者として入っておらず、建物の実施設計・施工や土壌汚染の調査にも関与していません。あくまで、テナントを見つけ、条件を整え、契約の形にするところが役割です。



つまずきやすいポイント


  • 「調べていない」は「無い」ではない:現況有姿・調査なしの引渡しは、リスクが消えたのではなく、買い手に移っただけです。倉庫跡地・工場跡地では、必ず負担区分を先に決めてください。
  • 負担区分は客観的な基準で特定する:「誠実に協議する」では何も決めたことになりません。深さのように、負担の範囲を客観的な基準で特定できる形にしておくことです。あわせて、地中から何かが出たときの立会・記録の手続きまで契約に書いておくことをおすすめします。線を引いても、どこから出たものかを確認する段取りがなければ、基準は基準のままです。
  • テナントが決まらないと、価格も決まらない:入札に出す側も、応札側にテナントの目処が立つ材料(図面・法規制の整理)を出せるかどうかで、集まる価格が変わり得ます。
  • 事業用定期借地権には公正証書が必須:当事者の社内調整と公証役場の日程が、最後の段取りを左右します。逆算して計画を。


まとめ


入札物件へのテナント誘致は、単に借り手を探す仕事ではありません。応札価格の根拠をつくり、負担の範囲を契約の文言で特定する仕事です。


この事例で起きたことは、次の3点です。


  1. ・応札の前に、当社が複数のテナント候補の感触(申込・面談・地代目線)を集めた——応札側にとって、テナントの目処が立つかどうかは、応札価格を社内で説明する材料になり得ます(有力候補は役員会で否決されましたが、複数社の目線を卓上に残して応札に臨めました)
  2. ・20社超への打診が、競合の密集するエリアで候補を絶やさなかった
  3. ・地中障害の負担区分を、賃貸借契約の前に「地表からの深さ」という基準で文言化した

長年にわたって物流倉庫として使われてきた土地が、現況有姿・調査なしという条件で入札にかけられ、それでも20年を超える事業用定期借地権でドラッグストアが立ち上がった。倉庫跡地の土地活用において、テナント誘致と負担区分の文言化が果たす役割は小さくありません。





倉庫跡地・工場跡地の売却や活用をご検討中の法人の方、また入札物件でのテナント誘致にお悩みの事業者の方は、まずはお気軽にご相談ください。

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